天使の羽やすめ。日本大使館にて。
2020年2月29日 オタワにて綴る -
今日は2月最後の日、四年に一回の2月29日。
今朝は窓のブラインドを開けると、澄み渡った青空とあたり一面の銀世界が私の目の前に広がっていました。
窓を開けると、土曜日の静かな朝、鳥たちの鳴き声と風の音。
私の大好きな景色です。
皆さんは、2月最後の一日、どんな一日を過ごしましたか?
それとも、過ごしていますか?
私は今週、パスポートの更新手続きをしに、生まれて初めて在カナダ日本大使館に行ってきました。今日のお話はそこでの忘れがたいエピソードです。
皆さんは在カナダ日本大使館がどこにあるかご存じですか?
そう、もちろんオタワにあるのですが(オタワはカナダの首都!)、私は今回訪ねるまで正確にどこにあるのかは知りませんでした。
日本大使館は、街中のリドーセンター (Rideau Centre)をバイワードマーケット(Byward Market)の方面に出て、そこから Sussex Drive という通りを10分ほど歩いて行ったところにありました。有名な カナダ国立美術館 (National Gallery of Canada)からも近いところです。
悠々と流れる冬のオタワ川を望む、静かな通りに面した茶色の建物で、よく注意していないと通り過ぎてしまいそうな、静かなたたずまい。見上げると門の上に日の丸の日本国旗が、これまたとても静かに風に揺れていました。
門は二つあるようでしたが、どちらの門にも人影はなく、一つの門に呼び鈴がついていたので、私はその呼び鈴を押して誰かが出てくれるのを待ちました。
日本語で話した方がいいのかなあ、それとも、ここではまだ英語がいいのかなあ、などと考えていると、親切な女の人の声がインターフォン越しに出迎えてくれました。
用件を伝えると、
「ヴィザの窓口は一時半からあきます。」
「じゃあ、あと10分ほど、この門のところで待ちましょうか。」
というと、
「外は寒いので、どうぞ中のロビーでお待ちください」
と言って、門の鍵をあけて中に通してくれました。
建物にはドアが二つあって、どちらか分からなかったので、いちばん正面らしいドアをあけて入ると、さっきインターフォンで応対してくれた女の人が笑顔で
「ロビーとヴィザセクションはもう一方のドアです」
と教えてくれました。なんて丁寧で親切なんだろうと感激しながら、私は笑顔でお礼を言ってそのドアを出ました。
ちなみに、この女の人は現地スタッフでカナダの方でした。この素敵なスタッフの方に会うことができただけでも、間違えたドアから入ってよかったと思いました。
さて、もう一度外に出て、もう一つのドアへ。
そしてそのドアを開けると -
皆さん、そこで私の目に飛び込んできたものはいったい何だったと思いますか?
なんと、雛飾りです!!!!!!
しかも、七段全部そろった立派な雛飾り。
それが、小さなこじんまりとしたロビーの窓際に飾ってありました。
お雛様 -
こんなところでお雛様を目にするとは!
事務手続きをするつもりで来たのに、思いがけないお出迎えを受けて、私は感極まり涙が出てしまいました。カナダにいたので、そもそも3月3日がお雛祭りだということも意識していなかったことに、このお雛様を見て気づかされました。
ロビーにはソファとテーブルのセットが一つとベンチが二つ置いてあったので、私はまだ衝撃が冷めやらない中、なんとなくお雛様の近くにあったベンチに腰を下ろしました。
そうこうしているうちに、ソファでお昼を食べていたスタッフの人たちが食べ終わって席を立ち、私に向かって「どうぞソファに座ってください」と言って去っていきました。
私一人になったので、私はちょうどお雛様に向き合うかたちでソファに座りました。
そして家から持ってきた鮭ふりかけと梅干の入ったのり弁を食べながら、私は本当に泣きました。まさか日本大使館でこんな感情的な体験をするとは思ってもいませんでした。
窓の外には小さな日本式箱庭が雪に埋もれているのが見え、目の前のテーブルには花瓶にお花が添えられていました。その空間で私が感じ取っていたものは - 深い安心感。
私はカナダでの生活が大好きで、家族のようなハウスメイトや友人たちの存在に恵まれて、日本から離れていて寂しいと思うことはほとんどない - たとえば、誰かが「帰りたいと思うことはないの?」ときいても「私、全然ホームシックないよ!」と言ったり、「日本人の友だちがオタワにいないのは大変そう」と心配してくれる人がいても「全然気にならないよ。友だちは心が通えば日本語でも何語でも変わんないもん」と言ったり。
それは本当なのですが(もちろん、メールや電話や手紙で日本の大切な人たちとつながれていることは私がホームシックにならない大事な理由のひとつです。これがなかったら、ここに書くことは間違いなく変わっていると思います。)、でも、この時、お雛様とお昼を一緒にしながら、私は深い気づきを得ました。
やっぱり、自分が生まれ育った土地、その文化と人々との繋がりは特別で、それは一生何ものにも代えられないということです。
仮に他にどんなに素晴らしい国や人々に出会ったとしても、自分の人生の最初の時間を包み込んでくれたもの - 場所、その土地の歴史、文化、人々、生活の習慣 - はずっと自分にとって根っこであり、その目に見えない繋がりは変わらずあり続けるものなのだという気づきが、私に大きな安心感を与えてくれました。
「お雛様ってなあに?」
日本の外に出れば、こういうことも、ひとつひとつ説明しないといけないことです。
「えーっとね、日本では3月3日はお雛祭りといって、女の子をお祝いする日なんだよ。こういうお人形を家に飾るんだよ」
と説明することはできますが、でも、一年に一回ひな祭りの人形を箱から出すときに味わった子供の時の興奮とか、お人形さんが身に着けている平安時代の着物や小物をこっそり見たり触ったりしながら昔々の人々の暮らしを想像したこととか、お雛様の時の雛餅が大好きで三つの色のひし形を分解して食べたこととか、そういうことは伝えることはなかなかできません。
説明することと、体験を共有することの違いを感じる瞬間です。
体験を共有していると、言葉で言わなくても伝わること、わかることが本当にいっぱいあるものです。それが面倒を呼ぶこともありますが、でも言葉にできない素晴らしさもまたあります。
1時半がやってきて、私は持ち合わせていた唯一の紙ナプキンで涙を拭うと、ヴィザセクションの窓口に行って無事書類を提出してきました。
帰り際、ロビーにたくさん置いてあった日本の情報パンフレットの中から日本の地図を近しい友だちに配るために何枚か持ち帰りました。
わずか20分程度の滞在でしたが、心に残る、素晴らしい訪問となりました。
最後に、皆さんにもこのお雛様の様子をぜひ見ていただきたいと思います。
最後までお読みくださり、本当にありがとうございました☆
今日も皆様にとって素敵な一日となりますように。
そして、楽しいお雛祭りを!
愛を込めて、
オタワの天使